先進七カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)に続く、世界銀行・国際通貨基金(IMF)総会。世界のバンカーがワシントンに集結する年中行事である。 その最中の九月二十四日、イタリア銀行のアントニオ・ファツィオ総裁が突然、専用機で帰国してしまった。総裁は、二日前に就任したばかりのジュリオ・トレモンティ経済財務相に、世銀・IMF総会への代表権限を剥奪されたからである。 中央銀行総裁が国際会議開催中に急ぎ帰国するという前代未聞の事態の舞台裏では、イタリア検察当局がある重要な捜査を進め、ファツィオ総裁への辞任圧力が高まっていた。 発端になったのは、銀行買収をめぐるドタバタ劇だ。 買収の標的にされたのは、北部パドバのアントンベネタ銀行。買収争いを演じてきたのは、ミラノ南郊のロディにあるバンカ・ポポラーレ・イタリアーナ(BPI)とオランダの大手銀行ABNアムロ・ホールディングである。 ABNアムロの最高経営責任者(CEO)リークマン・グローニンク氏が今年三月、アントンベネタ銀行買収の意図をファツィオ総裁に明らかにして以後、争いが始まった。BPIも同じ買収工作を進めていたからだ。 実はファツィオ総裁とBPIのジャンピエロ・フィオラニCEOは以前から個人的に親しい関係にあり、総裁はグローニンク氏にフィオラニ氏と会うよう勧めた。だが、ロディでのトップ会談は事実上決裂、双方は別々に買収を加速させた。

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