「ソチの復讐」はあり得るか

執筆者:名越健郎2014年2月3日

 2月7日開幕のソチ五輪ほど、政治が前面に出る五輪も珍しい。ロシアのプーチン大統領が国威発揚、国民統合、それに自らの政治的遺産としてソチ五輪成功に全力を挙げているのに対し、北カフカス地方のイスラム過激派勢力がソチ五輪攻撃を公言しているからだ。ロシア当局は治安部隊5万人以上を動員して厳戒態勢で臨む構えだ。ソチ五輪は「場外戦」に関心が移り、落ち着いて競技だけに集中できない大会となりつつある。

 

「虐殺現場」がスキー競技会場

 ソチ五輪最大の懸案はテロ対策である。昨年12月29、30の両日、南部のボルゴグラードで鉄道駅舎とトロリーバスが連続爆破され、計30人以上が死亡、80人以上が負傷した。ロシア当局は実行犯を送り込んだとして南部ダゲスタン共和国で男2人を拘束したが、2人の正体や指揮系統は公表されていない。米CNNテレビは、「夫をロシア軍に殺害された女性テロリストがソチ入りしたとの情報がある」と報道。米連邦捜査局(FBI)のコミー長官は1月9日、「ソチの安全を極めて憂慮している」とし、FBI要員数十人をロシアに派遣すると述べた。米側にもテロ情報が入っている模様だ。

 テロの黒幕とされる新興組織「カフカス首長国」のウマロフ司令官は昨年7月、ネット上に声明を出し、「ソチでは19世紀にロシア軍との戦闘で多くのイスラム教徒が死亡した。帝政ロシアによる祖先迫害の地だ」「五輪はイスラム教徒の墓の上で悪魔の踊りを行うようなものだ」とし、ソチ五輪を「全力で粉砕する」と予告した。このウマロフ司令官に対しては、米国務省も国際テロリストとして、500万ドルの懸賞金を懸けている。

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