代償も多い「クリミア併合」のバランスシート

執筆者:名越健郎2014年3月20日

 3月18日のプーチン大統領のウクライナ領クリミア併合演説は、議員らのスタンディングオベーションで歓迎され、涙を流したり抱き合う議員もいた。大統領が「世論調査では、95%の国民が併合を支持している」と述べたように、ロシア全土が一種のユーフォリア(陶酔)状態だ。ソチ五輪成功で高揚する民族愛国主義が異様なほど高まり、プーチン大統領への個人崇拝の動きもみられる。全国で併合祝賀集会が開かれ、北方領土の国後島でもクリミア連帯集会が行われた。メルケル独首相はオバマ米大統領に対し、「プーチン大統領は別世界に住んでいるようだ」と述べたらしいが、大統領から国民まで陶酔状態ではまともな交渉はできそうもない。

 

「投資環境悪化」と「生活苦」

 リベラル系のモスクワ・タイムズ紙(3月13日)は、「クリミア併合による帝国主義的高揚感はおそらく1、2カ月続くだろう。しかし、その後ロシア国民は欧米の制裁、ルーブルの下落、食料や輸入品の高騰、資金流出といった高いコストを実感することになる」と書いた。同紙は、クリミア支援の経済コストは年間50億ドルとしている。

 要人へのビザ発給停止など欧米の制裁は現時点で効果はなさそうだが、投資環境悪化がダメージになりつつある。年初来、通貨ルーブルは約10%下落。3割近く下落した投資信託もある。併合による西側との関係悪化で株価は4年半ぶりの安値を付けた。資本逃避もかなりのテンポで進んでいる模様で、高止まりする石油価格を除けば、状況は2008年のリーマンショック後に似てきた。

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