中国農村に広がる「借金漬け」の惨状

執筆者:林玲2006年4月号

ある地方自治体の党幹部が打ち明けた。「もうやってられない」。いったいどういう経緯で赤字が膨んだのか――。「私たちの鎮は借金漬けで、誰も鎮長にも共産党の幹部にもなりたがらない。なり手がいないので、私も辞めるに辞められず、こうして不本意なまま続けている。本当は、負担だけ大きくてみんなに恨まれる党の幹部なんかはさっさと辞めて、合弁企業か独資企業の経営でもやれればいいんだが……」 広州近郊のある鎮の共産党書記の口から思いがけない言葉が飛び出した。昨年十一月下旬、連れだってタイへ観光旅行に出かけたときのことだ。鎮は中国で県の下に位置する行政区画単位。鎮長はいわば町長でナンバー2、共産党書記がナンバー1である。 筆者が関係している合弁事業に協力してもらい親しくなった彼から、「どこか、楽しい旅行に連れていってほしい。できたらアメリカにでも」と要求されたのは十月のこと。常日頃、ワイロの要求もなく実直な彼と付き合ってきて、そんなことは初めてだった。なんとかアメリカ旅行をと努力したのだが、どうしてもビザが取れずにいたら、彼の方から「それでは、タイへ」ということになったのだ。“運用”を始めたはいいが…… その旅行がすごかった。中国の航空会社によるパック旅行にふたりで入りこんだので、筆者以外は当然ながら中国人のみ。それも決して肩で風切る富裕層ではなく、ごくふつうの庶民ばかりだ。機中ではほとんど酒盛り状態。タイ到着後のコースには淫靡なショーも含まれ、買春も。ひところの日本人団体の「タイ買春ツアー」が再現されていた。

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