ネット上ではISISがイラク治安部隊員を殺害前に連行する様子とされる画像が公開された (C)AFP=時事
ネット上ではISISがイラク治安部隊員を殺害前に連行する様子とされる画像が公開された (C)AFP=時事

 今月は、イラク情勢が国際ニュースの焦点となった。米軍が撤退して2年半。中東全体を巻き込むイスラム教スンニー派(盟主はサウジアラビア)とシーア派(盟主はイラン)の巨大な対立構造の中で、イラクの大半がスンニー派テロ組織の手に落ちかけている。国際テロ活動の拠点となる新たな無法地帯がイラク・シリアをまたぐ一帯に生まれるのか。懸念が高まっている。

 その一方で、1989年6月の天安門事件からちょうど4半世紀が過ぎた。民主化を求めた学生が一晩のうちにおそらく千人単位で圧殺されたあの事件を境に、大躍進を遂げた中国。この国とどう付き合うか。世界はあらためて立ち止まり、考えた。

 イスラム世界と中国。2つの難問を前に、カギを握るのはやはりアメリカだ。そのアメリカの立ち位置が揺らいでいる。その揺らぎこそが、ここ何カ月か当欄の大きなテーマとなってきた。今月もやはり、そこから入りたい。

 

「世界が嫌になった」だけか

「超大国に引退は許されない」。シリア、ウクライナと腰の定まらぬ対応続きで、米国の対外的信用をすっかり落としたオバマ大統領に、大物論客からの物言いが付いた。2003年の著書『楽園と力について』(邦訳題『ネオコンの論理』)で世界に大きな波紋を広げたロバート・ケーガン(ブルッキングズ研究所上級研究員)が、論壇誌『ニューリパブリック』に大論文を寄せ、「アメリカは疲弊しても、世界に負う責務がある」と訴えた。【Superpowers Don’t Get to Retire, The New Republic, May 26

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