小泉純一郎首相と長年、盟友関係にあった自民党の山崎拓、加藤紘一両元幹事長がよく口にする逸話がある。それぞれの名字の頭文字を取り「YKK」トリオと呼ばれていた一九九〇年代の話だ。 三人は夜な夜な酒食を共にしながら同じ時間を過ごした。いかにして「経世会(竹下派)支配」を打破し、自分たちの時代を築くか。共通の関心事は党内政局にあったが、政策論議にも時間を割いた。冷戦終結、バブル崩壊、政治改革、北朝鮮の核危機……内外の情勢が音を立てて変わる中で話題は尽きなかった。酒席は時に深夜に及んだ。だが、首相が積極的に議論に参加したことはほとんどなかった。「純ちゃん、どう思う?」「えっ?」「今の話、聞いてた?」「いや、他人の意見を聞くと感性が鈍るから」。取り合わなかった首相 他人の意見を聞かない――。国会質疑でも往々にして質問に忠実に答えない今日の姿を髣髴とさせるものがある。議論に熱中する二人の脇で「純ちゃんはよく店の女の子をつかまえて雑談に興じていた。女性の意見は聞くようだ」(山崎氏)と逸話は続く。 最高権力者の座に就いて五年余り。「解散反対」の大合唱を押し切り、歴史的勝利を物にした昨年九月の郵政選挙を経て、その性癖にはいよいよ磨きがかかっていた。今国会の会期延長問題も絵に描いたような独断専行だった。

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