「ザルカウィ殺害」でもイラク情勢は好転しないと言える理由
2006年8月号
「われわれはワシントン・ポストとニューヨーク・タイムズしか重視してないんだよ」 約二十年前、親しくしていたチャールズ・レッドマン米国務省報道官にそんなことを言われたことがある。その他の報道機関が何を書こうと相手にしない。ポストとタイムズにだけは“きちんと”書かせるという意味でもある。両紙に重要情報をリークして、世論の流れをつくるという米政府の手法だ。 米軍が「イラク聖戦アル・カエダ組織」を率いていたザルカウィ容疑者を殺害した直後の報道もその好例だ。両紙の記事には、共通のファクトが多い。 米情報当局は、ザルカウィ容疑者の宗教顧問、アブドルラフマン師を追跡した結果、ザルカウィ容疑者の所在を把握することができた。同師がザルカウィ容疑者と近い関係にあり、二人は必ず会う、という情報は、五月にヨルダン情報機関がイラク国境近くで捕まえたアル・カエダ組織の中級幹部、自称ジアド・ハラフ・アル・ケルボウリから得ていた。同師は、イスラム教スンニ派指導者との連絡係を務め、テロリスト予備軍のリクルートから資金集めまで担当した。まさにザルカウィ容疑者の右腕だったようだ。 米特殊部隊はヨルダン情報機関から情報を得て、アブドルラフマン師を追跡した。ニューヨーク・タイムズ紙が、特殊部隊は「電子信号情報」にも頼ったと伝えているところをみると、同師の携帯電話を盗聴したに違いない。あるいは、同師の体に極めて微小な発信器のようなものを取り付けて綿密に追跡した可能性もある。
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