この連載の先月号の原稿に、担当編集者が「『軽くて強い車』の秘密は“結晶”にあった」というタイトルを付けた。高い強度を実現しながら加工・成形性に優れた「自動車向け高張力鋼板ハイテン(High Tensile Strength Steel)」の開発は、精錬の過程で炭素や窒素などを徹底的に減らした極低炭素鋼(IF鋼)からスタートしたが、後に、鋼の結晶組織をコントロールすることでまったく新しいハイテンであるTRIP(高残留オーステナイト)鋼やDP(フェライト・マルテンサイト組織)鋼を生み出した。 また、その結晶の制御は、圧延と呼ばれる工程で、熱い鋼にどのようなタイミングで水を掛けて温度制御したり、延ばしたりするかに秘密があるとも紹介した。記事のタイトルは、こうした内容を受けてのものだった。 これを見て、機械工学の一環として金属の破断研究を行なってきた中日本自動車短大教授の高行夫は、「学者は、そんなことを思いつかないものだ」と苦笑いする。 産業界では、学問の世界で極限を追究した成果が多く生かされているが、高は、「自動車用鋼板では、大学の材料工学研究が大きく貢献したケースはあまりないのではないか」とちょっと自嘲気味に語る。

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