米軍変革ドクトリン「EBO」が過信される危険

執筆者:杉田弘毅2006年9月号

イラク戦争はEBOで形の上では勝利した。だが、「血を流さない戦争」には根本的矛盾が付きまとう。[ワシントン発]ラムズフェルド米国防長官が掲げる「米軍変革」が試行錯誤しながら進んでいる。同時テロ(九・一一)、アフガニスタン攻撃、イラク戦争などを経て世界と米国の安全保障環境が変わる中、世界最強の軍隊を二十一世紀に見合った形にしようとの動きだ。一方で米軍は、広がる戦線、膨らむ犠牲で、入隊者の定員割れを生み、採用基準を下げたり、入隊一時金を支払って兵員を確保する有り様。志願制の米軍は一般社会と乖離し、後述するように作戦面の変化と相俟って戦争の敷居を否応なく下げてしまう恐れがある。 米大西洋岸バージニア州サフォーク。「米軍変革の実験室」と言われる米統合軍司令部の統合戦闘センターがある。冷房の効いた体育館のような建物に入ると、バグダッドのゲリラ戦のシミュレーション映像が飛び込んできた。 米軍変革の基本ドクトリンは、エフェクト・ベースト・オペレーション(EBO)だ。EBOでは戦闘効果を重層的に予想しながら、攻撃作戦を立案し、実行する。現地住民が反発し敵が力をつけ、その後の米軍の作戦を破綻させる事態になれば、個々の戦闘で勝っても意味がない。長期的な影響を常に考えて攻撃の是非、内容を決める。

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