[カイロ発]七月半ばから八月半ばにかけてイスラエルとヒズブッラー(ヒズボラ=シーア派軍事・政治組織)の間で行なわれたレバノンでの大規模な戦闘によって、レバノン政治と中東の地域秩序にはどのような変化がもたらされたのだろうか。停戦後の外交や内政の動向を含めて、まとめてみたい。バランスを取るシニョーラ政権 まず、この戦闘で勝者は誰だったのか。アラブ諸国の世論では「ヒズブッラーが勝った」ということになっている。アラブ民族主義者は五十年前の英雄故ナセル・エジプト大統領と並べてヒズブッラーの指導者ナスラッラーの写真を掲げた。 当のレバノンでは話はそう簡単ではない。ヒズブッラーにとっては確かに「大勝利」だった。レバノンの多くの勢力が、少なくとも表向きは反イスラエルの立場でヒズブッラーへの支持を表明せざるを得ず、一般市民の被害に対して国際的に非難が高まり、国内外のモラル・サポートの獲得という意味で完勝である。これによってアラブ域内での威信をこれまでになく高め、レバノン内政での地位を上昇させただけでなく、昨年二月十四日のハリーリー元首相爆殺をきっかけに反シリア・親欧米路線が「三月十四日勢力」に結集し優位に立っていたレバノン政治の流れを一気に変え、イスラエルとの武力紛争を内政の主要課題とするようにレバノン諸勢力を追い込んだ。

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