どの核保有国でも、核実験は国家の最高機密であり、極秘裏に実施するのが常だ。 アメリカが一九四五年七月十六日に行なった世界初の実験も、旧ソ連が四九年八月に行なった実験も、舞台裏では、米ソのスパイが暗躍した。イスラエルと南アフリカが七九年九月に合同で行なったと言われるインド洋上の核実験は閃光が探知されたが、実験かどうか不明だ。 北朝鮮があえて核実験を予告した裏には、北朝鮮の「核」の政治的特殊性がある。北朝鮮が狙う「核保有国」の地位をめぐって情報戦争が展開されている。 十月三日、北朝鮮外務省が出した前触れ声明は、朝鮮語版と英文で、ニュアンスが微妙に違う。朝鮮語では「核実験を行なうことになる」と曖昧だが、英語では「将来(イン・ザ・フューチャー)核実験を行なう」としている。英語で「イン・ザ・フューチャー」と言えば、すぐやらないという意味もある。 しかしその直後、アメリカから切迫した情報が伝わってきた。クラウチ米大統領副補佐官は五日、訪米した谷内正太郎外務事務次官と会談し、「今週末にもあり得る」との認識で一致した。同日付のワシントン・ポスト紙も「早ければ八日にも核実験」と伝えた。米東部時間の八日(日曜)は日本時間の九日であり、副補佐官とポスト紙の予測は、ぴたり正確だった。米情報機関は確実な兆候を掴んでいたとみるべきだろう。

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