「生産現場」軽視が招いたモノ作りの危機

執筆者:杜耕次2006年11月号

「異物混入」と「偽装請負」は、一本の線でつながっている。ソニーの危機も労働力軽視にその根源があった。 モノ作りの危機が言われて久しい。バブル後の「失われた十五年」の間に日本の製造業は競争力低下を余儀なくされ、代わって中国が「世界の工場」の看板を確立した。ただ、自動車や最先端のエレクトロニクス分野などでは、日本の国力を維持する最後の砦とばかりにメーカー各社が血のにじむようなリストラを繰り返して、国内の生産拠点を死守した。その強固な意志は半ば実を結び、国内に工場は残ったものの、その過程で泥縄式に施した“弥縫策”がここに来て綻びを見せ始めている。 九月から十月にかけて、表面的にはさほど関連性を感じさせない二つのニュースが新聞の経済面と社会面をにぎわせている。経済専門の記者たちが追いかけているのは次世代家庭用ゲーム機「プレイステーション3(PS3)」の発売延期やリチウムイオン電池の過熱・発火事故で取り沙汰される「二〇〇六年版ソニーショック」であり、片や業務請負最大手クリスタルグループの中核会社コラボレート(大阪市)が偽装請負を繰り返して大阪労働局から事業停止命令を受けた、いわゆる「クリスタル問題」を主に取材しているのは社会部所属の記者たちだ。

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