写真レポート 北朝鮮国境地帯をゆく

執筆者:青井悠司2007年1月号

去る九月末、ある観光客が中国・遼寧省を訪れた。北朝鮮が核実験を行なう直前のことだ。観光客は鴨緑江をはさんで中国と向き合う北朝鮮側に足を踏み入れる機会を得た。筆者は、その観光客の存在を知り、短いながらも珍しい“北朝鮮滞在”について聞き取り調査をすることができた。観光客は写真も撮っていた。北側ではもちろん、中国側でも国境付近は監視の目が光り、おおっぴらに写真撮影をすることなどできない。観光客は、監視の目をくぐり、簡易カメラですばやくシャッターを押したという。ここに掲載する写真のいくつかがややピンぼけ気味なのはそのせいである。以下は、観光客が語った中朝国境付近に見る「北朝鮮の現実」だ。 小さなボートを漕ぎ出し、ガイドが「ほー、ほー」と喉の奥を鳴らして合図を送ると、対岸の小山の上に五、六人が駆けつけて来る姿が見えた。さらにボートが岸に近づくと、朝鮮人民軍の兵士三人が走ってきた。兵士が山の上を指差して何ごとか叫ぶと、先に待ち構えていた五、六人はすごすごと姿を消す。ボートを漕ぐガイドは「いつものことです。何かをもらえると期待して寄ってきた農民を、兵士が追っ払ったのです」と、こともなげに解説する。 観光客は戸惑いを隠せなかった。子供の肥満が社会問題となっている中国の隣で、北の兵士や農民は小柄で痩せ細り、乏しい草を食んでいる牛までが肋骨を浮き上がらせている。川一本隔てただけの対照的な風景は、かつて「鮮血で固めた友誼(友情)」を謳い上げた中朝の両国が、もはや遥かにかけ離れてしまった現実を映し出していた。

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