前回11月25日付「米国にとっての『ウクライナ問題』(上)『大戦後最も深刻な国境線変更』」に引き続いて、米国にとっての「ウクライナ問題」を考えてみたい。今回は、冷戦終結後の北大西洋条約機構(NATO: North Atlantic Treaty Organization)の東方拡大をめぐる議論を考察する。

 NATO の東方拡大というのは、1990年代後半から続いてきた東欧の旧共産圏諸国のNATO 加盟の流れを指す。1999年にチェコ、ハンガリー、ポーランドがNATO に加盟したのを皮切りに、2004年にブルガリア、エストニア、ラトビア、リトアニア、ルーマニア、スロバキア、スロベニアが加盟、2009年にはアルバニアとクロアチアが加わって現在に至っている。

 国際関係論で「リアリスト」とよばれる理論家たちは、安全保障条約というのは「共通の脅威」に対して結ばれるもので、「共通の脅威」が消滅すれば条約も自然消滅すると考えてきた。つまり、リアリストによればNATO はソ連解体とともに消滅するはずであったにもかかわらず、NATO が冷戦終結後も消滅するどころか、むしろ加盟国を増やして拡大していったことは、国際政治学における議論を大いに刺激することになった。

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