石油、ガス、原子力の統制を進めるプーチン大統領が、学問の国家管理にも乗り出した。「科学と国家科学技術政策に関する法律」の改正案を作成、学術の総本山であるロシア科学アカデミーの独立権を剥奪する準備を進めている。改正法案では、アカデミー指導部を政府による任命制とし、傘下の学術機関の予算を国家の完全管理下に置く。クレムリンは、戦略部門に効果的に予算を充当できると説明している。だが、政治学や歴史学の分野では、実質的な思想統制が進みそうだ。 影響は日露関係にも及ぶ可能性がある。北方領土はスターリンによる不法占拠だという史実は、ソ連崩壊後、ロシアでも歴史家の間で定着しつつあった。だが、歴史学の国家管理が強まれば、日本の侵略戦争への「罰」として北方四島を取り上げた、というクレムリンの宣伝が、学問の世界でもまかり通る恐れがある。 領土問題で柔軟な発想をする日本専門家は、所属研究機関から体よく追い出される恐れもある。領土問題の歴史的経緯を両国民に啓発するという日露の政府間合意は、プーチン政権下で空洞化しつつある。

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