一種奇妙な裁判だった。評決後、被告側も反ブッシュ陣営も、そして陪審員までが不満を漏らした。チェイニー副大統領の元首席補佐官、ルイス・リビー被告(五六)が有罪評決を受けた、米中央情報局(CIA)工作員名漏洩事件の裁判のことだ。 陪審員の一人、ワシントン・ポスト紙の元記者デニス・コリンズ氏は閉廷後、記者団に囲まれ「私たち陪審員はリビー氏のことを裁いたわけではない、と願っている。ひどい裁判だった」と怒りを露にした。 実はリビー氏は、ボスのチェイニー副大統領のために「生けにえにされた」(チャールズ・シューマー上院議員=民主党)とみられているのだ。“本丸”はやはり、副大統領なのである。チェイニー副大統領は、民主党が多数を握る米議会で矢面に立たされることになるだろう。 この裁判では、ホワイトハウスの舞台裏の政治と情報をめぐる暗闘の一部が、「証拠」の形で、白日の下に晒された。例えば、二〇〇三年七月六日付のニューヨーク・タイムズ紙の切り抜き。記事の欄外に副大統領の走り書きがある。「彼の妻は彼を官費旅行させたのかね」という副大統領らしい皮肉だ。「彼の妻」とはCIAの元美人スパイ、バレリー・プレーム・ウィルソンさん。そして「彼」とは彼女の夫、ジョセフ・ウィルソン元駐ガボン大使のことだ。

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