大相撲春(大阪)場所の千秋楽の三月二十五日、優勝した大関白鵬に恒例の「フランス共和国大統領杯」が贈られた。土俵に上ったアラン・ナウム総領事は「優勝おめでとうございます」と日本語で賞状を読み上げ、杯を手渡した。本来はジルダ・ル・リデック大使が直々に手渡すが、大使は所用で大阪に来られず、総領事が代理で出た。 同じころ、東京のフランス大使館広報部の担当者は大忙しだった。パリのエリゼ宮(大統領官邸)に幕内の取組結果を、詳細な決まり手とともに報告しなければならないからだ。これは時を置かずしてシラク大統領に伝えられたはずである。 場所中の十五日間、結びの一番が終わるとすぐに取組結果をエリゼ宮に送るのは、シラク大統領がその座についてこの十二年、フランス大使館の欠かせぬ仕事になってきた。送った後も気を抜けない。「大統領がもっと詳しく知りたがっている」と連絡が入ることがあるからだ。 大統領の相撲愛好家ぶりはつとに知られている。決まり手を熟知し、相撲観戦では夫人や側近に解説する。ジャーナリストのピエール・ペアン氏が半年間にわたるインタビューをもとに同大統領の半生をたどった近著『エリゼ宮の見知らぬ人』はいまフランスでベストセラーだが、この中で大統領は「日本の相撲は単なるスポーツではなく、すぐれて精神性の高い伝統行事である」と語っている。

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