4月15日に、トヨタ自動車はメキシコのグアナファト州に3年ぶりとなる新工場の建設を発表した。業績悪化にともなって2012年に、2015年度まで新工場建設を凍結するという方針であったが、凍結解除を1年前倒しして、中国広州市での新工場建設とともに決定した模様である。
 筆者は昨年6月28日付の論考「ダルビッシュのいるダラス:『レンジャース』で考えるテキサスと米国」で、「トヨタ北米総本社の(ロサンゼルス郊外トーランス市から)ダラス郊外プレイノ市への移転(は)、メキシコでの生産体制を強化することをにらんでのことと思われる」と指摘した。北米自由貿易協定(North American Free Trade Agreement: NAFTA)に基づくカナダ・米国・メキシコ間の物流の「扇の要」となっているダラスは、メキシコでのビジネスを進めるには恰好の場所である。
 メキシコ国内での自動車生産は、2014年に初めて300万台を突破(322万台)し、ブラジル(315万台)を抜いて世界第7位に躍進するなど、目覚しい成長を続けている(http://www.marklines.com/ja/statistics/flash_prod/productionfig_mexico_2014)。昨年7月23日付の論考「アベノミクスと日本の『宿題』―続・TPP の政治経済学」でも述べたが、NAFTA で結ばれている米国とメキシコの間では、完成車の輸出入だけではなく、工程間分業に基づく産業内貿易が盛んに行われている。
 しかしながら、日本人にとってはメキシコは依然として「遠い国」ではなかろうか。物理的な距離感もあろうが、むしろスペイン語圏であるがゆえに「ラテンアメリカ国家」に分類されることで、「北米国家」に分類される米国やカナダと距離感があるように感じるからではないか。筆者が所属するサザンメソジスト大学政治学研究所ではメキシコに関する様々な講演やセミナーが開かれているが、今回は、昨年11月にダラスを訪れたアントニオ・ガーザ元駐メキシコ米国大使へのインタビューも交えながら、メキシコ事情を考察したい。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。