需要の増すアジアのインフラ投資で主導権を握り、第2次世界大戦後の国際金融秩序に揺さぶりをかける中国政府は、ニカラグアの運河建設構想に続き、今度は南米大陸の横断鉄道建設計画を発表し、米州で攻勢を仕掛けている。昨年末のキューバとの電撃的な関係正常化交渉発表後に米国寄りにシフトしたかに見えた米州関係の勢力図の変化に対し、インフラ投資への資金力に物を言わせて待ったをかけようとする中国外交のしたたかさである。

 

習近平主席に続く李克強首相の歴訪

 中国の李克強首相は5月18日から26日まで、ブラジル、コロンビア、ペルー、チリの4カ国を歴訪している。昨年の習近平主席に続きたたみかけるような首脳外交による外交攻勢である。
 最初の訪問国ブラジルでは、経済低迷と石油公社などの汚職問題で苦境に立たされたルセフ政権と35の協定に署名、BRICSの同盟国としてアジア・インフラ投資銀行(AIIB)構想で中南米から唯一参加を表明した同政権を全面的にバックアップした形である。経済支援は、石油公社(ペトロブラス)への62億ドルの資金援助、中距離旅客機エンブラエル22機の購入(11億ドル)など広範に及び、援助額は総額で1030億ドル。5月23日付英誌『エコノミスト』は「中国の小切手帳」と揶揄している【リンク】。なかでも注目されたのが、ブラジルにとって最大の貿易相手国・中国が、ブラジルと戦略的連携関係にあるペルーを巻き込んで大西洋と太平洋を鉄道で結び、中国への物流の拠点と動脈網を構築しようとする大陸横断鉄道の建設計画である【リンク】
 マトグロソ州などブラジル中・西部で生産される大豆などの農産物を、ペルーを経由してアジアに輸出するためのインフラ建設計画は、南米統合の枠組みのもと南米インフラ計画(IIRSA)に基づき4半世紀前から動いてきた案件である。中国はそれを独自資金で別の形で加速的に動かし、南米に物流の橋頭堡を築こうとする。中国系資本をバックに陰で動かそうとするニカラグア運河建設と異なり、中国が経済援助を背景に南米に公然と切り込もうとする大胆な超ビッグプロジェクトだ。

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