今度は「大陸横断鉄道」:「インフラ投資」で南米を攻める中国

執筆者:遅野井茂雄 2015年5月27日
エリア: 中南米 アジア

 需要の増すアジアのインフラ投資で主導権を握り、第2次世界大戦後の国際金融秩序に揺さぶりをかける中国政府は、ニカラグアの運河建設構想に続き、今度は南米大陸の横断鉄道建設計画を発表し、米州で攻勢を仕掛けている。昨年末のキューバとの電撃的な関係正常化交渉発表後に米国寄りにシフトしたかに見えた米州関係の勢力図の変化に対し、インフラ投資への資金力に物を言わせて待ったをかけようとする中国外交のしたたかさである。

 

習近平主席に続く李克強首相の歴訪

 中国の李克強首相は5月18日から26日まで、ブラジル、コロンビア、ペルー、チリの4カ国を歴訪している。昨年の習近平主席に続きたたみかけるような首脳外交による外交攻勢である。
 最初の訪問国ブラジルでは、経済低迷と石油公社などの汚職問題で苦境に立たされたルセフ政権と35の協定に署名、BRICSの同盟国としてアジア・インフラ投資銀行(AIIB)構想で中南米から唯一参加を表明した同政権を全面的にバックアップした形である。経済支援は、石油公社(ペトロブラス)への62億ドルの資金援助、中距離旅客機エンブラエル22機の購入(11億ドル)など広範に及び、援助額は総額で1030億ドル。5月23日付英誌『エコノミスト』は「中国の小切手帳」と揶揄している【リンク】。なかでも注目されたのが、ブラジルにとって最大の貿易相手国・中国が、ブラジルと戦略的連携関係にあるペルーを巻き込んで大西洋と太平洋を鉄道で結び、中国への物流の拠点と動脈網を構築しようとする大陸横断鉄道の建設計画である【リンク】
 マトグロソ州などブラジル中・西部で生産される大豆などの農産物を、ペルーを経由してアジアに輸出するためのインフラ建設計画は、南米統合の枠組みのもと南米インフラ計画(IIRSA)に基づき4半世紀前から動いてきた案件である。中国はそれを独自資金で別の形で加速的に動かし、南米に物流の橋頭堡を築こうとする。中国系資本をバックに陰で動かそうとするニカラグア運河建設と異なり、中国が経済援助を背景に南米に公然と切り込もうとする大胆な超ビッグプロジェクトだ。

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執筆者プロフィール
遅野井茂雄(おそのいしげお) 筑波大学名誉教授。1952年松本市生れ。東京外国語大学卒。筑波大学大学院修士課程修了後、アジア経済研究所入所。ペルー問題研究所客員研究員、在ペルー日本国大使館1等書記官、アジア経済研究所主任調査研究員、南山大学教授を経て、2003年より筑波大学大学院教授、人文社会系長、2018年4月より現職。専門はラテンアメリカ政治・国際関係。主著に『試練のフジモリ大統領―現代ペルー危機をどう捉えるか』(日本放送出版協会、共著)、『現代ペルーとフジモリ政権 (アジアを見る眼)』(アジア経済研究所)、『ラテンアメリカ世界を生きる』(新評論、共著)、『21世紀ラテンアメリカの左派政権:虚像と実像』(アジア経済研究所、編著)、『現代アンデス諸国の政治変動』(明石書店、共著)など。
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