玄永哲氏の粛清・処刑は事実

 こうした北朝鮮内部の雰囲気を作り出している背景には金正恩第1書記による側近の粛清や更迭がある。金正恩第1書記に「提言」をすることが「命令不服従」や「抗命」ととられる危険性があるからだ。
 韓国の情報機関、国家情報院が5月13日に明らかにした玄永哲(ヒョン・ヨンチョル)人民武力部長の粛清は事実であり、処刑されたとの情報も事実のようである。処刑の細部の情報には誇張があるようだが、処刑そのものは事実とみられる。
 6月15日付の韓国紙「朝鮮日報」は北京発で、北朝鮮が玄永哲人民武力部長を処刑したことを海外公館に通告したことが明らかになったと報じた。同紙によると、北朝鮮当局はその罪名について「命令不服従」「党の領導拒否(金正恩氏の命令不履行)」などを挙げているという。
 北朝鮮に近い消息筋も玄永哲人民武力部長の粛清、処刑を認めた。消息筋は、玄永哲人民武力部長は地方の軍団などで勤務してきた野戦軍出身の軍人で、北朝鮮軍部で力を持つ総政治局出身のような政治軍人と異なり、言葉の使い方で未熟な部分があり、それが粛清、処刑につながってしまったのではないかという見方を示した。おそらく本人はなぜ自分がこのような目に遭うのか理解できなかったのではないかと指摘した。
 理解に苦しむのは、北朝鮮のテレビが依然として玄永哲人民武力部長の姿を放映していることだ。6月6日に放映された牡丹峰楽団の歌「栄光を与えよう、わが党に」の画面には2012年10月29日に放映された金日成軍事総合大学創立60周年での金日成主席と金正日総書記の銅像建立の除幕式の様子が流れたが、ここには金正恩第1書記とともに出席した玄永哲人民武力部長の姿があった。6月15日に放映された男性合唱団の歌「革命武力は元帥様の領導だけを奉じる」の画面にも玄永哲人民武力部長が登場した。また、6月16日には、「死んでも革命信念を捨てるな」などの歌の画面に玄永哲人民武力部長や更迭された辺仁善(ピョン・インソン)前作戦局長の姿が登場した。
 しかし、玄永哲人民武力部長の粛清後に製作された記録映画などでは玄永哲人民武力部長の姿はない。
 北朝鮮が過去に製作した記録映画などの映像から玄永哲人民武力部長の姿を消さない理由は明らかではないが、国際世論を意識して、粛清の事実を曖昧にするための措置かもしれない。

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