オマル・シャリーフの死

執筆者:池内恵2015年7月11日

7月10日、カイロで、エジプト出身の俳優オマル・シャリーフが死去。1962年の『アラビアのロレンス』(デービッド・リーン監督)でロレンスとぶつかりながら民族独立に目覚めていく高貴な出の若者「シャリーフ・アリー」の役を演じて以降欧米映画界で著名となり、『ドクトル・ジバゴ』(1965年、デービッド・リーン監督)の主演などで知られる。しかし中東文化史の中では、1950年代のエジプト映画の黄金時代に主要な映画に次々に出演して一時代を築いた。22歳の時に出演した『涸れ谷の死闘』(1954年、ユースフ・シャーヒーン監督)でスターになり、同様の作品に次々に出演した。エジプトが革命と民族主義でアラブ世界を牽引して、最も元気が良く夢があった時代を象徴する俳優。「地上の楽園」としてのエジプトの民族主義のプロパガンダだったという感もあるが、彼の出演するエジプト映画は今でも繰り返しアラブ世界の衛星放送で放映されている。1950年代にエジプト映画の看板俳優だった1950年代から、1960年代以降、そしてつい最近まで様々なお爺さん役で、欧米の映画界で活躍しつ続けてきた。キャリアは非常に長い。中東の歴史の変遷を見届けてきた世代の顔がまた一人亡くなった。BBCの追悼文が、それぞれの人生の各段階を紹介していていて最も良い。欧米で有名だったのは確かだが、エジプト映画に一時代を作ったことも書いてくれていると嬉しい。Omar Sharif: Lawrence of Arabia star dies aged 83, BBC, 10 July 2015.

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。