ロシア軍のシリアでの空爆作戦は、旧ソ連圏以外では、ソ連軍によるアフガニスタン介入(1979-89年)以来の軍事行動となった。アフガン介入後の本格的な軍事作戦としては、2次にわたるチェチェン戦争、2008年のグルジア戦争、14年のウクライナ介入があるが、新生ロシアとしては初の旧ソ連圏域外への軍事介入となった。中東での軍事作戦発動は、ソ連時代を通じても初めて。その背景には多くの動機があるが、隠された狙いは、中東の地政学リスクを高めて原油価格を引き上げ、苦境のロシア経済を浮揚させることだろう。

「中東への影響力」と「長期借款」

 プーチン大統領は9月30日、政府幹部との会議で、「アサド大統領から軍事支援の要請を受け、国際法に基づき、対テロ作戦を行う」と述べ、作戦は一定期間の空爆に限定し、地上戦は行わないと明言した。大統領は空爆直前の国連総会の演説で、①アサド政権は正統な政権であり、シリア問題は政権を通して解決すべきだ②「イスラム国」は人類の主要な敵であり、ロシアはこの認識を共有する諸国と協力する――の2点を強調していた。

 シリアには旧ソ連圏外で唯一の海軍基地があり、中東や地中海に軍事プレゼンスを確保する上での橋頭堡となっている。自らが後ろ盾となるアサド政権が崩壊すれば、ロシアの面子は丸つぶれになり、大国として中東への影響力を失うことになる。加えて、ロシアがシリアに供与してきた兵器は長期借款であり、シリアはまだほとんど返済していない。後継政権が誕生すれば、借款を踏み倒すのは確実だ。アサド政権の存続が、軍事介入の大義名分である。

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