「政争」という文脈では何でもありだろうが、今回の安保法制審議を振り返ると、戦争と軍事力の役割に関わる根本的な知見をもとに議論されたとは言い難い。米国の優れた安全保障専門家と言われるR・アーミテージ氏は、某新聞に寄稿して「国会において優れた議論が行われた」と指摘している。しかしそれは、 “Boots on the ground” を言い続けてきた思いが通ったという氏自身の納得を示したものであって、軍事を深く理解しているであろうアーミテージ氏が国会での議論を真に評価したという意味とは思えない。残念ながら、法案成立まで、議論の深化を促す軍事的識見の不足が目立ち、別けても政治家の言動には、シビリアン・コントロールへの危惧を喚起するものさえあった。

 軍事力行使に最も重要な要素は、殺傷と破壊を厭わない「軍事的合理性」である。それは戦いを有利に導き任務遂行を図るために必要だが、時に社会秩序や人道との乖離を導く。国は、法案の成立によって、武器を持って戦う自衛隊員に対して軍事的合理性の行使を許容することにしたのである。

「重要影響事態安全確保法」「米軍等行動関連措置法」「海上輸送規制法」の成立は、アメリカをはじめ他国への武器、弾薬等の輸送、給油など、前線の友軍戦闘力の強化に直結する後方支援を可能にした。敵は、この後方活動を看過しないだろう。われの戦闘を不利に陥らせる相手を妨害、無力化することは軍事的合理性にかなう。こちらの補給活動が終了するまで敵が手出しせず傍観するなど軍事的に有り得ない。第2次世界大戦においては、ドイツ潜水艦がヨーロッパに向かうアメリカの補給船を、あるいはアメリカの潜水艦や戦闘機が、南方戦線へ物資を輸送する日本の補給船を攻撃し撃沈した戦史がある。

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