9月30日に始まったロシアの対シリア軍事介入から1ヶ月がたとうとしている。過日は"Fog of War"と表現しておいたように、膨大に溢れ出る関連情報・報道は、多分に情報戦の一部であり、事実をそのまま伝えているとは考えにくい。特定のニュース単体を取り上げることがかえって全体像の把握を妨げる危険性もあり、「中東通信」でのニュース転送をしばし控えていた。

一ヶ月観察したところでは、ロシア側と欧米側の政府およびメディアを通じた情報発信には、次のような大まかな傾向がある。

ロシア側の国内向け・国際向けの報道では、

(1)ロシアの空爆の正当性(シリア政府の要請、敵はジハード主義テロリストであり近い将来にロシアに直接脅威となる、等々)を主張する。

(2)ロシアの空爆の実効性(空爆は正確で民間人の犠牲は皆無、空爆は大規模で効果絶大、これを背景にしてアサド政権が破竹の前進、等々)を宣伝する。

(3)米・英・欧州のメディア報道・政府高官発言への反論・反撃(空爆で民間人が死傷した証拠を出せ、ロシア兵死亡報道は嘘・本当は自殺、等々)が活発である。ロシアの対外発信は、米・英の主要メディアの報道や政府高官発言に直接的に対抗して発せられるものが多く、そこから結果的に欧米の動向・議論に依存・従属している面がある。現地の現実を動機として発せられているものではないものも多い。一見して虚と分かるその場しのぎの反論から、欧米主導の国際メディアのバイアスを根本で風刺する卓抜なものまで、対米批判に関してはロシアの報道機関には冷戦期以来の卓越性が認められる。

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