古代・中世の栄枯盛衰は言うに及ばず、「消え去った国家」は現代世界でも珍しくない。歴史の流れに呑み込まれた南ベトナムやソ連、東ドイツから、いったん独立をうたったものの長続きしなかったビアフラ共和国(ナイジェリア)やクライナ・セルビア人共和国(クロアチア)まで、数え切れない。

 ウクライナ東部の「ドネツク人民共和国」もたぶん、そのような国の1つになるだろう。ロシアの支援を当てに独立を宣言したものの、シリア空爆に関心が移った親分から見放され、その存続は風前の灯火だ。

 それだけに、この「国」が存在するうちに訪問したいと考えた。その時の様子を、少し時間が経ってしまったが報告したい。

 トランジットで立ち寄ったキエフで防弾チョッキとヘルメットを積み込み、ウクライナ東部の中心都市ハリコフに着いたのは、今年5月3日の夜だった。

 

誕生した2つの「人民共和国」

赤い点線はドネツク、ルガンスクそれぞれの州境で、「人民共和国」としての領土はもっと狭い

 昨年2月のウクライナの政変「マイダン革命」に危機感を抱いたロシアは事実上の軍事介入に踏み切り、3月にクリミア半島を併合したのに続き、東部のドネツク、ルガンスク両州も内戦状態に陥れた。両州は石炭鉄鋼産業が盛んな地域で、ソ連時代に移り住んだロシア語人口が多い。

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