ロシア機の墜落したシナイ半島は、南部・最南端のシャルム・エル・シェイクが著名なリゾート地であるのに対して、北部のガザとの国境地帯は辺境地域で、ガザとの間にトンネルを用いた文字通り地下・非合法の密輸ネットワークが広がり、反政府勢力が武装化して政府の軍・治安部隊と衝突する危険地帯であり、観光で行くようなところではない。

欧米人の観光客を引き寄せていた南部のシャルム・エル・シェイクは、2011年のムバーラク政権崩壊後、欧米人観光客の足が遠のいて苦境に立たされた。しかしロシア人観光客は2011年の政権崩壊の際も、2013年のクーデタの際も、引き続き滞在し続けた。私はロシア国営放送局のニュースをNHKBS1で翻訳で聞いているが、ロシアの国民レベルでの発想の違いにしばしば目を開かされる。ある時、不穏な動静にもかかわらずシャルム・エル・シェイクでの休暇を続けるロシア人観光客にインタビューしていたが、客は政情不安を気にせず滞在し続ける理由を、「安いから」だけでなく、「ロシアの旅行代理店は払い戻ししてくれないから」とも言っていたのが興味深かった。

この調子だと、ロシア人観光客はチャーター機はあくまでも機体不良など個別の問題で、危険度はそれほど高くないと認識して、今後もシャルム・エル・シェイクに来続けるかもしれまい。事故の原因がはっきりしなければ、欧米人観光客は一層シナイ半島を避けるようになるだろう。そうなるとロシア人観光客にとっては一層安く、来やすくなる。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。