歴史的「中台トップ会談」の勝者はだれか?

執筆者:野嶋剛2015年11月10日

 満面の笑みを浮かべた台湾の馬英九総統は、いささか硬い表情の中国の習近平国家主席と握手を交わしたあと、とっさにスーツの前ボタンをさっと外し、世界から集まった数百人の記者団に手を大きく振った。筋肉質で胸板の厚い馬氏はスーツが破れてしまうことを心配したからで、馬氏はボタンを外したまま、会談の会場に向かった。

 

60秒以上続いた握手

「中台分断後初」とされた歴史的な中台トップ会談で、馬氏の高揚ぶりは目立った。冒頭の公開発言の予定はそれぞれ5分。習氏は「我々は、血は水よりも濃い家族である」と使い慣れた決まり文句を淡々と語り、4分30秒できっちり語り終えた。一方、馬氏の話は5分で終わらなかった。仕切り役のシンガポール側は、発言途中で報道陣をシャングリラ・ホテル「Island Ballroom 」から追い出した。発言は結局、6分以上続いた。馬氏の話には、中国の古典『尚書』からの引用「非知之艱、行之惟艱」(知るに易く、行うに難し)など漢学教養がふんだんに盛り込まれ、中華民族主義者・馬英九の「中華の本家は我が中華民国にあり」という意気込みが伝わってきた。

 そんな馬氏と、「中華民族の復興」を掲げる習氏との相性が悪いはずはない。会談後、馬氏は習氏を「現実的で、柔軟で、率直だった」と最大限持ち上げた。60秒以上続いた握手について「気持ち良かった。2人とも力一杯握った」とも。2人は食事中、抗日戦争の話を語り合った。習氏が、ミズーリ号で降伏文書に調印した日本の要人は誰だったか思い出せずにいると、馬氏が「重光葵ですよ」と教えるというやり取りで盛り上がったという。

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