トルコのロシア機撃墜の国際的影響

執筆者:池内恵2015年11月25日

トルコによるロシア軍機の撃墜がシリアをめぐる国際政治に及ぼしうる影響をいくつか考えてみると次のようになる。

(1)トルコが支援するトルクメン人の保護の問題が顕在化し、ロシア・アサド政権との間の紛糾が続くとともに、米国が同盟するクルド人勢力がトルクメン人と競合関係にあることも加わって、トルコと米国との協調関係にもヒビが入りかねず、シリアの紛糾・国土分裂は一層進むことになる。

(2)トルコのロシアとの関係紛糾により、トルコを不可欠の同盟国とする米国・NATOとロシアのシリア和平交渉をめぐる歩み寄りが困難になり、対「イスラーム国」での国際協調を目指す米欧の政策に障害となる。ちょうどオランド大統領が訪米しオバマ大統領と会談する日に生じた撃墜事件である。米・仏(及び英)とロシアとの間で、アサド大統領の処遇といった政治的対立点では合意できないにしても、空爆での協調などは進みそうな雰囲気であったがこれがどう変わるのだろうか。また、たとえ米・仏首脳で何かを決めても、現地の同盟国のトルコの協力がなければ実施が困難である。

(3)NATOの一員であるトルコへのロシアの領空侵犯によってもたらされた軍事衝突であるならば、即座にNATOによる共同防衛の対象となり、トルコ・シリア国境をめぐって米とNATOとロシアの間の軍事的緊張が高まる。この記事を書いている間も、NATOの緊急会合が即日に開かれている。トルコ・シリア国境をめぐって米露は対立したくはないだろうが、この上さらにエスカレーションの要素が加われば先は読めなくなる。

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