シリアのトルクメン人と汎トルコ主義

執筆者:池内恵2015年11月25日

ロシア機撃墜事件によって、その背後にあるトルクメン人問題が、欧米メディアでも無視できない問題となり(トルコはこの問題に以前から注目を促してきたが)、BBCも急遽「シリアのトルクメン人とは何か?」という解説をウェブサイトに掲載している

ただでさえ複雑なシリアの宗派・民族構成の中で、点在するトルクメン人の問題は省略されがちだが、トルコ民族主義、特にチュルク系諸語の民族全体を広い意味でのトルコ民族ととらえる汎トルコ主義の観点からは、クルド人問題と同様の関心を持って見られてきた(筆者の個人ブログでは以前にドイツのトルコ人団体の掲げるシリア北部のトルクメン人居住地点の地図を示したことがある)。汎トルコ主義はトルコ共和国の民族主義者の一部によって推進されていると共に、世界のチュルク系諸語の民族の中にネットワークを持っている。中国のウイグル人が迫害を逃れるルートもこれに依拠している面があるようだ。それによってウイグル人がトルコ経由でシリアの反政府部隊として傭兵的に動員されているという話も囁かれる。シリアの崩壊は、シリアの一部を汎トルコ主義的な視点からの版図で失地回復しようとする、あるいはトルコ系住民を保護しようとする民族意識を刺激する。トルコ政府も管理しきれない面があるのだろうし、政府内にもそのような運動を支援する勢力がいるだろう。

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