ミャンマー連邦議会の総選挙で圧勝したアウン・サン・スー・チー党首率いる国民民主連盟(NLD)が、単独で新政権を樹立出来ると思いきや、現実はそうではない。スー・チー氏の目前に立ちふさがるのは、総選挙で大敗したはずの軍部に他ならない。NLDと軍部との連立政権――これがミャンマー新政権の実像となる。
 軍出身のテイン・セイン大統領が、与党・連邦団結発展党(USDP)の敗北を予想しながら総選挙に踏み切り、野党のNLDに政権を平和裏に明け渡すとの決断をした背景には、いったい何があるのであろうか。軍部からの支援を取り付けないままで、スー・チー氏が順調に政権運営を出来るはずがないと、軍部は緻密な計算を働かせていた可能性がある。

総選挙には圧勝したものの……

 国際的な選挙監視団が見守る中、民主的な総選挙(上下両院)が2015年11月8日に実施され、予想通りにスー・チー派が勝利、それも圧勝して、軍部が主導権を握る与党が敗北した。
 選挙結果と憲法の規定を確認しながら、スー・チー派が直面する政権運営の難題を整理したい。2016年1月から2月にかけて、現在の国会が解散され、新しい国会を召集して、国会議員の間接投票によって新大統領が指名される。
 3月までにスー・チー氏が主導する新政権が発足し、新大統領も就任する。現在の憲法規定により、同氏は大統領に就任することができないが、最高実力者として新政権を支配下におく。つまり陰から政権を操る以外に方法がない。逆説的だが、民主化を最大の売り物にしてきたNLDは、非民主的な統治を導入せざるを得ないのだ。制度的には、極めて不透明な意思決定プロセスが出現することになる。
 上下両院の総議席数は664(民族代表院と呼ばれる上院224、国民代表院と呼ばれる下院440)で、うち軍人枠が166議席(上院56、下院110)。軍人枠は非改選のため、今回は498議席が争われた。その結果、NLDは390議席を獲得し、総議席の過半数を制することができた。テイン・セイン大統領が総選挙での敗北を予想しつつも、総選挙を実施したことは高く評価されてよい。軍部が長い独裁政権の後、平和裏に政権を手放す稀有な例であろう。しかし軍部が実権や既得権益を、そう易々と手放すはずはない。

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