シリア内戦へのロシアの軍事介入は、冷戦期以来最大規模の中東での軍事バランスの変化をもたらしつつある。中でも重要なのはロシアの空軍戦力と防空能力のシリアへの導入である。9月30日のロシアのシリア空爆開始に備えてロシアは一気に軍事施設をシリア西北部に設立したが、11月24日のトルコによるロシア機撃墜を受けて、ロシア製の対空ミサイル・システムを導入して、シリア上空の制空権を握る構えである。

ここで大きな影響を受けるのがイスラエルである。これまでは米国との緊密な同盟関係の下で空軍戦力を整備し、米国から供与される対空ミサイル・システムに加えて独自の「アイアン・ドーム」を開発・整備し、レバノンのヒズブッラーからのミサイル攻撃や、シリアやイランによる奇襲攻撃に備えてきた。イスラエルはレバノンのヒズブッラーによるミサイル攻撃能力の増強や、イラクやシリアの核開発計画の疑いを感じ取ると、独自の空爆を強行して危険を未然に絶ってきた。それはイスラエルの空軍の奇襲攻撃を阻止する防空能力がシリアやレバノンやイラクにないことが前提だった。少なくとも短時間の奇襲作戦中であればイスラエルはレバノンやシリアで実質上の制空権を確保できるというところに、イスラエルの国家の生存の根幹があると言っていい。

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