サウジ政府によるシーア派反体制指導者ニムル師の処刑は、サウジ国内の宗派間紛争に根ざした反政府運動の弾圧という意味を持つ。しかしサウジにとって今回の大量処刑の最大の目的は、シーア派の反体制派の弾圧よりも、スンナ派でサウジの支配的イデオロギーであるワッハーブ主義を共有するアル=カーイダ系の過激派の制圧だろう。この日処刑した47名の内43名はスンナ派の反体制派だった。国際的にも、そして何よりも国内向けに、国内の過激派の挑戦に対して一歩も引かない断固たる決意を示したということだろう。

スンナ派の過激派はともすればサウジの社会を底堅く支える保守層の反発を招きかねない。そこでシーア派の反体制派を処刑し、シーア派の反発を国内・国際的に引き起こすことで、多数派・主流派のスンナ派の結束を固めたということではないか。

"Saudi executions driven by fear of militancy, signal combative policy," Reuters, January 4, 2016.

イランの激しい反発はサウジにとっては織り込み済みで、望むところだろう。イランが反発したことをもって、サウジ政府は国内のシーア派反体制派はやはりイランに操られていたと主張する根拠にしていくだろう。イランやシーア派住民の敵対姿勢を引き出せば出すほど、サウジの多数派のスンナ派市民は、頼れるのはサウド王家しかないと再確認させられるからである。

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