米国はサウジとイランのどちらにつくのか

執筆者:池内恵2016年1月5日

1月2日にサウジによるシーア派反体制指導者処刑の発表がなされてから、サウジ・イラン関係の緊張が高まり周辺国を巻き込んでいった1月4日までの間に、米国の姿が見えないのが気になる。米国務省は処刑の報に接して、人権擁護の観点からの疑義や、宗派紛争の惹起への懸念を即座に表明した。しかしイランでのサウジ大使館・領事館への襲撃・放火に対してなんら非難の声明を出しておらず、双方に自制を促すに止まっている。在外公館の不可侵は国際規約であり、実際にサウジの大使館・領事館がイランで盛大に焼き討ちにあっているにもかかわらず、オバマ政権がイランに対して強い態度を示さなかったのは不可解である。ロウハーニー政権・イラン政府が襲撃を非難しており、実行犯たちを検挙しているとも発表しているため、政府公認ではない。しかしバシジ(革命民兵)など、より実質的にイランの国家の中枢に近い組織が関わっている可能性がある。

イランの体制内強硬派を刺激して、欧米対話路線のロウハーニー政権を苦境に立たせたくない、ロウハーニー政権が進めてきた核開発問題交渉の妥結・履行を覆したくないといった思惑・配慮がオバマ政権にあるのだとすれば、それは同時にサウジを頑なにさせ、イランとのチキン・ゲームを、アメリカへの当てつけの意味も込めて、より強化することにつながるかもしれない。

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