中国は「蔡英文の台湾」をどう虐めていくのか

執筆者:村上政俊2016年1月29日

 台湾外交部の建物に一歩足を踏み入れると、色とりどりの国旗が出迎えてくれる。「青天白日旗」(国民党旗)をデザインの基調とする中華民国旗を除くとその数は22であり、台湾が国交を結ぶ国の数と一致する。中国共産党が「1つの中国」原則に固執していることから、中台を二重承認している国家は存在せず、中国と台湾は経済援助を武器に互いに国交国を奪い合ってきた。現在の国交国22カ国の地域別の内訳は、中南米カリブ海12、大洋州6、アフリカ3、欧州1であり、前3地域の小国が争奪戦の主戦場だった。しかし、中国経済の急成長以降、台湾は劣勢を強いられ、陳水扁政権発足時(2000年)は29カ国だったが、任期8年間で23カ国にまで減少した。

 

「バチカン」切り崩しの可能性

 2008年の馬英九政権発足以降、台湾の国交国数は、ほぼ一定に推移した。中国に宥和的な馬英九を支えるために、中国が国交国争奪戦を停止(「外交休兵」と称される)したからだ。そんな中で、2013年11月、西アフリカのガンビアが台湾と断交した。中台双方は示し合わせたように、断行への中国の関与を否定したが、背後には2007年にガンビアの最大貿易相手国となった中国の影があるとみてよいだろう。外交休兵は北京の「善意」によって成り立っており、中国の一方的な意思でいつでも撤回できるということを内外に誇示することが狙いだったと考えられる。蔡英文氏当選で、中国が切る可能性がある最初のカードの1つは、現在までペンディングしているガンビアとの国交樹立によって外交休兵の終わりを告げることだろう。
 蔡英文次期総統にとってより重要なのは、バチカンの動向だ。中国は、馬英九総統のフランシスコ法王就任式(2013年3月)出席に抗議しつつ、祝電を送り、バチカンにも触手を伸ばしているようだ。欧州で唯一の国交国であり、世界3大宗教の総本山としてキリスト教諸国に対して大きな影響力を誇るバチカンは、台湾国交国の中で群を抜く存在だが、そのバチカンが中国に「寝返る」ことになれば、台湾のダメージは測り知れない。

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