マイナス金利下での遊民たち

執筆者:吉崎達彦2016年2月20日

 ご近所でアパートの建設工事が始まっている。建築現場の前を通るたびに、つい余計なことを考えてしまう。
 年間に生まれてくる子供の数が、国全体で100万人を割ろうかという時代に、ワンルームマンションなんぞを作ったところで、いったい誰が住んでくれるのだろう。どう考えても、新たな「空き家問題」を作るのが落ちだと思うのだが。察するに土地のオーナーは、「年金だけでは老後が心配」などと考えて、一勝負しようとしているのであろう。でもそれって本来、リスクを取るべきでない人が、リスクを取るようになってしまっているのではないのかなあ、と。

 こんなことは要らぬお節介というものであろう。が、日本中が「下流老人」や「老後破産」という言葉にビビっている昨今、長生きはめでたいことではなくて、むしろ警戒すべきことだと見なされ始めている。そんな現象は、人類の長い歴史の中でもせいぜいここ20年くらいのことであろうから、結構なことだと達観することもできる。とはいえ、ご当人たちにとっては深刻な事態かもしれない。なにしろ有料老人ホームに入っていても、「転落死」させられたりする世の中である。
 今月、マイナス金利が導入されてから、高齢者を取り巻く環境はますます厳しさを増したように見える。あれは民間金融機関が、日本銀行に置いている当座預金のごく一部がそうなるという話であって、普通預金がマイナスになる、すなわちおカネを預けていると目減りしてしまう、ということではない。とはいえ、既に金利全般は下がり始めているわけで、テレビなどでは連日のように、「デンマークでは住宅ローンがマイナスになった例がある」などという解説をやっている。

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