高齢者マネーと老後の道楽

執筆者:吉崎達彦2016年3月5日

 若い世代はご存じないかもしれないが、その昔、日本興業銀行という銀行があった。ある時期までは、本当に立派な会社であった。私の母は若い頃、その行員であったことを生涯の誇りにしていた。
 まだ終戦から間もない頃のことである。「新円切り替え」という暴挙が行われた。わが国の歴史において、ただ一度だけ行われた「預金封鎖」である。銀行に詰めかける殺気立った預金者たち(その多くは企業経営者であった)に対し、窓口に立った彼女は一人で「決まりですから払えません」という説明を何度も繰り返したという。
 高校を出たての女子行員にとって、それは大変に強烈な経験であったようで、そのことをよく私に語ってくれたものだ。
「だからね、政府ってのは信用しちゃいけないのよ。困ったら何をするかわからないんだから」

 すべての人がそうだとは言わないが、昭和ひとけた世代には、こういう考え方の持ち主が少なくないと思う。もし母が生きていたら、今頃は口を極めてマイナス金利政策をののしっていたはずである。前回に続いて申し上げるが、あれは確実に高齢者を敵に回す政策だと思う。
 日本銀行のメッセージはきわめて明快である。「安全資産を持っていても、いいことないですよ」。だから企業は内部留保を吐き出しなさい。ちゃんと設備投資をして金儲けをしてください。できれば賃上げもやってください、でなきゃ、いつまでたってもデフレから脱却できないじゃないですか、ということである。
家計に対しては、普通預金や債券だけじゃなくて、少しは株も買ってくださいな。日本経済にはリスクマネーが足りないんですから。もっといいのは、お金を使ってくれることですよ。あの世にお金は持っていけませんからねえ、てな感じであろう。

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