トルコの不法移民収容所はテキルダーにあり

執筆者:池内恵2016年3月10日

トルコから夜陰に乗じて小舟に乗ってギリシアの島に渡りEU域内に到達しようとする難民・移民の波がEU−トルコ交渉の最大の課題となっている。トルコから見ると、EUは一方で「難民を流出させないでくれ」と頼んでくるのだが、他方でしばしばトルコの難民の扱いについては人権上の観点から批判してくるのだから、矛盾・欺瞞も甚だしい、と感じてしまっても仕方のないところだろう。

例えばこのBBCの記事では、トルコによる、ある一群の難民申請者の、収容所での拘束や尋問のあり方、シリアへの送還を「違法」と批判する。ここで取り上げられているのは、トルコに入国した後、公然と、正面から、難民としてトルコを通過してギリシア(EU)にわたって難民申請をすることを許すようトルコ政府に求めた約2000人のシリア難民の事例である。トルコを密出国してギリシアに密入国を図るのではなく、真正面からトルコ政府に「EU圏に渡って難民申請をする権利を認めよ」と主張しているわけである。その者たちをトルコは拘束して、一部はシリアに送還してしまっている、というところが批判の的になっている。

トルコ政府によるこの一連の難民への扱いは難民に関する国際法規範に違反しているのだろうが、トルコがある程度「違法」に難民の波を押しとどめなければ、EU諸国に今よりもさらに大規模に難民が押し寄せてくることになる。シリア難民の受け入れを最大規模で行っているトルコが、国際法上グレーゾーンの裁量を利かせて難民の移動をある程度阻害し滞留させてきたからこそ、西欧への影響はこの程度で済んでいるのである。

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