3月11日夜、福島県南相馬市のはずれにある原町区小沢という集落で、住民集会が開かれる。各地に離散した旧住民が、この日、ある議論を行うために集まるのだ。東日本大震災からちょうど5年目にあたる日だ。

「ある議論」とは、この集落を守る本尊として住民たちが長年祀ってきた「虚空蔵(こくうぞう)菩薩」(=写真)の社(やしろ)の再建である。社は震災で破損し、住民たちは、ご本尊を近くのお寺に“疎開”させていた。

 虚空蔵菩薩とはもともと密教に由来し、空海が近畿地方に広めたとされるが、その後全国数十カ所に広まって祀られていることが確認されている。はるばる南相馬にやってきたのは、四国か紀伊半島から海流に乗って伝えられたという説もある。

 ここ小沢地区では震災まで約50世帯の住民が、春秋の年2回、例大祭を催すなど、心の支えとして菩薩像を大切にしてきた。その教えでは、うなぎがご本尊の使いと信じられ、今でも年配の旧住民はうなぎを食べない。

 一方、国は今年4月に、南相馬市について、東京電力福島第1原子力発電所の事故に伴う避難指示を解除する方針(一部の帰還困難区域を除く)を決めた。この変更に伴って、社を自分たちの手で再建して、5年ぶりにご本尊をお迎えしようという声があがり、この日、それを決める再建委員会が催されることになったのだ。

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