2016年1月の核実験、2月の衛星打ち上げと続けざまに安保理決議違反となる活動を行い、国際社会に大きな波紋を呼んだ北朝鮮。これまで北朝鮮に厳しい制裁を科すことをためらってきた中国もさすがに腹に据えかねた状況となり、北朝鮮に対して厳しい制裁を科すことに同意した。これが3月2日に採択された、国連安保理決議2270号である。
 この決議は「過去20年で最も厳しい制裁」と言われ、これまでの北朝鮮制裁決議に加え、広範な禁止事項や北朝鮮への圧力を高める措置が盛り込まれている。この決議は、これまでの国連が進めてきた「ターゲット制裁」や「スマート制裁」と言われる限定的な制裁の流れを変える、歴史的な転換となる可能性もある制裁決議である。

「包括的制裁」と「ターゲット制裁」 

 これまでの国連による制裁の歴史をたどると、国連憲章第7章に基づく強制措置として実施されたのは、南ローデシアの不法政権に対する制裁が初めてである。この時は南ローデシアから産出される資源や生産された製品すべての輸入禁止と南ローデシア向けの輸出の禁止という全面的な貿易停止などが定められた。しかし、東西冷戦、旧宗主国のイギリスが主導したことに対する途上国の反発などにより、その効果は限られており、国連制裁に注目が集まることはなかった。
 国連安保理による制裁が大きな注目を浴びるようになったのは、1990年代の湾岸戦争後のイラクであった。ここでは「包括的制裁」と呼ばれる経済全体に影響を及ぼす措置が取られた。具体的には全面的な貿易制限や石油の禁輸などである。これによってイラクの国民生活は困窮に陥る一方、大量破壊兵器の査察にサダム・フセイン政権は応じず、制裁の効果が疑問視された。さらに、国民生活の改善を目指してOil for Food(石油食糧交換プログラム)という仕組みを作ったが、この仕組みを悪用して当時の国連事務総長だったコフィ・アナンの息子が汚職事件を起こすといった問題まで起きた。
 そのため、制裁のあり方が再検討され、人道的な配慮と大量破壊兵器の拡散の阻止という2つの目的を達成するために考案されたのが「ターゲット制裁」であった。これは核やミサイル開発といった活動そのものに関わる部品や資材の制裁国への輸出を禁じ、それらの活動を停止させる、ないしは遅らせることが目的である。こうすることで食糧や医薬品といった国民生活に必須なものは正当な貿易が可能になる一方、禁止されるべき活動は止められるという考え方である。
 もちろん、既に「国際機関の部屋」で解説してきたように、この「ターゲット制裁」だけで核やミサイル開発に直接関連するものの輸出だけを止めたとしても、様々な制裁回避の手段が取られてしまう。そのため、制裁回避をさせないために専門家パネルを設置し、その手段を封じていく作業も必要となる。
 また、国民生活に影響が出ず、政策決定者や核・ミサイル開発に関わる組織や個人に打撃を与えるため、武器禁輸や北朝鮮の場合「奢侈品(Luxury Goods)」なども制裁の対象とすることがある。

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