全人代でも「尖閣」に牙を剥いた中国の意図

執筆者:村上政俊2016年4月6日

 中国政治の1年間の最大のイベントである全国人民代表大会(全人代)での共産党幹部による活動報告の中で、日中関係の文脈で着目すべきだったのは、周強・最高人民法院(最高裁判所)院長のそれだった。立法、行政、司法の三権分立が存在せず、共産党の完全コントロール下にあるのに加えて、これまで司法機関のトップの発言が日中関係に影響を与えることはほとんどなかったので、日本からの注目度は、李克強首相(序列2位)の政府活動報告などに比べれば劣っていた。しかし、海洋国家日本の国益に反して、尖閣情勢を歪曲しようとする中国政府の意図について、ここでしっかりとした分析を加える必要がある。

中国が主張する「司法管轄権」の暴論

 今月13日の活動報告で、周強は、中国は尖閣海域で「司法管轄権」を行使していると主張した。2014年9月に発生したパナマ船籍(貨物船、YUSHOHARUNA号)と中国船籍(漁船)の船舶衝突事故に対して、福建省厦門(アモイ)の海事法院(軍事法院などと並ぶ専門人民法院の一種)が和解を仲裁したことがその根拠だという。
 領海には沿岸国の主権が及んでいる。我が国の刑法1条1項では、「この法律は、日本国内において罪を犯したすべての者に適用する」と規定され、我が国の領海に管轄権が及ぶという「属地主義」の立場が明らかにされている。これに対して、海の憲法とも呼ばれる国連海洋法条約に定義規定が置かれていないものの、いずれの国の管轄権にも含まれない海域を公海と呼ぶ場合がある。
 こういった海洋問題の基本に立ち戻るまでもなく、日本固有の領土である沖縄県尖閣諸島に対する中国の主張に、全く根拠がないことは直ちに明らかになった。まず、第1に、事故が起こった場所が尖閣諸島の領海外であり、接続水域でもなかったことである。岸田文雄外務大臣から15日、記者団に対して、事故発生場所が尖閣諸島の北北西約40海里の公海上であったとの説明があり、中国が主張する尖閣海域での管轄権と今回の外洋で起こった事故を結び付けることが不可能となった。
 また、事故の後のプロセスについての事実関係も完全に誤っていたようだ。貨物船を所有する海運会社(福岡県)は当初、漁船側と直接、補償交渉を始めた。その後、漁船側が厦門の裁判所に提訴したが、結局のところ、双方の協議で海運会社が漁船側に補償金を払う和解が成立し、その過程に裁判所は関与していなかったという。つまり、中国側が根拠として挙げた裁判所による和解がそもそも存在していないというのだ。
しかし、中国の主張が全く馬鹿げたものだからといって、対応をなおざりにしてはならない。中国はこれまでにも尖閣に対して、法的に正しいかのような見解を繰り返して、尖閣を自国領のように見せるためのアリバイ作りをしているのだ。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。