冒険活劇を読むような楽しさがある

 台湾人の伝記を読む楽しさには、格別なものがある。

 思想や立場がいかようなものであれ、その人生は波乱と困難に富みながら、絶望や苦悩を糧にさらなるパワーで前進していく姿に感銘させられ、同時に、国家とは何か、民族とは何か、といった、我々日本人にとって日頃いささか縁遠い近代社会の普遍的テーマについても、深い思索を持たせてくれる。

 このほど手に取った『台湾と日本のはざまを生きて 世界人、羅福全の回想』(藤原書店)は、まさに20世紀の東アジアの激動を生き抜いた台湾人の活劇であり、読者=観客は、読了後、心からの拍手喝采を送ることになるだろう。

 

日台関係の最前線で活躍

 羅福全は、台湾の嘉義に生まれ、幼少時代、日本統治から中華民国への移行の際に起こった「2.28事件」(国民党政権による民衆弾圧の契機となった事件)という無辜の民への虐殺を目撃した。その後、日本に留学して経済学を修めるかたわら、米国に渡ってノーベル賞を受賞した経済学者クラインの下で研究を深めた。一方で、台湾独立運動に目覚め、台湾の国民党政権からはブラックリストに入れられ、以後30年以上にわたって帰国できない状況に陥った。ところが、運命のいたずらか、能力が認められて国連に職を得た結果、日本や韓国など世界各国を自由自在に飛び回り、改革開放の中国にも何度も訪れて経済政策での助言を授けた。やがて台湾の民主化でブラックリストも解除され、台湾で2000年の政権交代が起きたときに、民進党政権下での初代駐日代表に就任し、4年間にわたって日台関係の最前線で活躍した。

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