ブラジルのテメル大統領代行はレバノン系

執筆者:池内恵2016年5月28日

ブラジルでルセフ大統領が上下両院で弾劾決議を受け、180日間の職務停止となっている。そのためミシェル・テメル副大統領が大統領代行を務めている。中南米の政治家で、どこかアラビア語風の名前があると、おそらくレバノン系あるいはシリア系であると予想がつく。調べてみるとやはりそうで、レバノン系移民二世だった。

"Michel Temer: The Lebanese roots of Brazil's new president," BBC, 12 May, 2016.

"Why a Lebanese village welcomes Brazil's new president," BBC, 17 May, 2016.

フルネームを見ると「ミシェル・ミゲル・イリヤース・テメル」とあり、父は第一次世界大戦後にレバノン北部から移民したミゲル・イリヤース・テメル。テメルはアラビア語では「ターミル」だろう。祖父の名前とみられる「イリヤース・ターミル」なら典型的なレバノン・シリアのキリスト教徒の名前である。

「レバ・シリ」系の移民(これにパレスチナ系も加えてもいい)の移民意欲は強く、19世紀末から続々と世界各地に移民している。西欧特にフランスとの関係が深いが、北米と中南米への移民が多い。オーストラリアやアフリカにも行っている。移民先で巧みにのし上がって、政治権力者になる者が多い。アルゼンチンで1989年から99年まで大統領を務めたカルロス・メネムもシリア系移民二世だった。おそらく祖先は「アブドルモネイム」という名前で、イスラーム教徒だったのが移民して改宗したのではないかと思われる。イスラーム教では改宗は絶対的に禁じられており、中東や南アジアでは起こり得ないが、中南米では移民先のキリスト教社会に溶け込むために改宗する例は過去にはあったようである。

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