当然だが、現実にアメリカを動かしているエスタブリッシュメントたちは、このこと(在日米軍はアジア太平洋地域の公共財=「『トランプ発言』を正面から考える(上)在日米軍経費の実態」を参照)を充分すぎるほどわかっている。だからトランプ氏が何をどう「放言」しようと、アメリカの国益を考えるならば、米軍の世界展開による国際的な平和と安定を維持する、という基本戦略は変わりようがないだろう。
 もしトランプ氏が大統領に就任すれば、直ちにNSC(国家安全保障会議)や国務省、国防総省からのブリーフィングを受けることになるだろうが、その時になって初めて、日米安保条約の真の意味を知ることになるはずだ。

普通のアメリカ人は極東のことをよく知らない

 ただやっかいなのは、こうしたトランプ氏の感覚は、普通のアメリカ国民も同じだ、ということだ。筆者は、15年前に在米日本大使館防衛駐在官としてワシントンDCに勤務した経験があるが、東海岸(east coast)における日本の存在感のなさを痛感したものである。多くの普通のアメリカ人は、日本が経済大国であることは知っていても、日本がアジア太平洋地域でどのような戦略環境にあるのか、などということは深く考えてはいないのだ。アメリカでは、国民の代表たる上院・下院議員は、関係各国と積極的な議員外交を行っているが、日本の国会議員との関係は、正直なところ活発とはいいがたい状況にある。

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