イギリスは大陸ヨーロッパからはしばしば「不実のアルビオン」と揶揄される。アルビオンとは、ブリテン島に進軍したシーザーが白亜の岸壁を見て、「白い国」と呼んだことからきているといわれる。ラテン語のalbus(アルビュス)は「白い」という意味だ。イギリスの呼名である。
 ただし、外交的な意味ではイギリス外交の狡猾さと巧みさを表現したものである。ヨーロッパ大陸から一歩引いて「孤立主義」の名のもとに日ごろは無関心を装いつつ、大陸で国益に関わる場合には巧みに介入する。ある種のイギリス外交のご都合主義を皮肉を交えて表現したものである。

「不実のアルビオン」への「制裁」

 今回それはモノの見事に現実となった。欧州経済共同体(EEC)が調子のよい時に加盟を望み、ユーロ導入でもイギリスはポンドへのプライドとともに慎重姿勢を取り続けた。ここにきて社会経済の苦境の責任を欧州連合(EU)と外国人に転嫁して離脱となった。そして国民投票直後キャメロン首相は、離脱をすぐにEUに正式通告せず、首相辞任を10月に設定した。それまでに時間を稼ぎ、EUとの離脱交渉を少しでも有利に進めようという目論見が透けて見えた。
 しかしEU本部はそれを許さない構えである。イギリスのEU離脱を決めた国民投票結果の出た翌日25日には、欧州統合の原加盟6カ国外相会議が開催されて、イギリスがただちに離脱をEUに通告し、政権交代を急ぐことを要請した。離脱の手続きを急がせるためである。すでにベルギー外務省の人間がEU側のイギリスとの離脱交渉役に任命された。
 国民投票を行うイギリスを残留させるために、新規移民に対する社会保障の一部削減、英国をEU政治統合などの統合深化から除外すること、EUに対する各国議会の権限強化、英国などユーロ圏外の企業を差別しないことを保証する、などをEUは今年2月に決めた。イギリスの反EUの機運を鎮静化させるためのEU側の譲歩だった。
 EUから離脱すれば、もっと過酷な試練が待っている――。EUが英国離脱派に伝えようとしたメッセージはそうしたある種の「制裁」だった。今から12年前の憲法条約作成の段階でも「連邦主義」という表現を削除したり、EUはこれまでに幾度となく、イギリスに譲歩してきた。堪忍袋の緒は切れる寸前である。 

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