6月30日、記者会見し、英保守党党首選への不出馬を表明したジョンソン前ロンドン市長 (C)AFP=時事

 欧州統合の先が見えない。
 英国の国民投票の結果が出た直後、欧州連合(EU)首脳会議は厳しい姿勢でイギリスに早期の離脱通告を迫った。しかし英国の離脱派に先のシナリオはなかった。6月30日に離脱派の旗振り役のボリス・ジョンソン自身がキャメロン後の保守党党首選の候補をさっさと降りてしまった。無責任の極みであるが、すでにジョンソン氏は支持者の信用を全く失ってしまっていた。EU離脱の大きな理由の1つであったEUへの拠出金を医療費に回すと有権者に訴えたにもかかわらず、投票後のテレビインタヴューで同氏は「約束はしていない」と一転。次期党首はメイ内務大臣の線が有力となっているが、いずれにせよ英国に対する信用の失墜は加速された。

初の「離脱国」

 とりあえずは、英国内が落ち着くのを待つしかない。6月29日に終了したEU首脳会議では当初の意向を翻して、離脱交渉は9月に英国の首相が決定し、正式の離脱通告が出された後に行うことで妥協に応じた。事態の先送りだ。
 しかし、事前の交渉はしないことを断言した。それは離脱後もEUとの間で自由貿易などの恩恵を享受し続けることを望む英国を牽制するためだった。英国が関税のない域内貿易と同じ条件を望むのであれば、「人の移動の自由」を受け入れることが条件になるとEU側は提案した。トゥスク欧州理事会常任議長(理事長・EU大統領)は、「EUの単一市場にアクセスしたいなら、移動の自由などEUが掲げる人の移動の自由を認めることが必要だ」とくぎを刺した。
 EUは人の移動の自由を認めている。シェンゲン協定のもとでは、第三国から入国してきた人たちも一旦加盟国から入国を許可されると、加盟国内を自由に移動できる。今回の国民投票では移民排斥の声が高まり、「ポーランド人配管工が英国人の職を奪う」という風評がまことしやかに流れた。英国が自由貿易の権利を維持するなら、その代償として東欧のEU加盟国からの労働者や第三国からの外国人流入者の受け入れ義務(ただし、英国はこの義務を負うシェンゲン協定には加盟していない)を英国は負うべきだというのがEU側の真意だ。
「簡単には離脱させない」という意思と「離脱のデメリット」を内外に知らしめることは、今後のEUの存亡にかかわる。その求心力と連帯感を維持できるか否かがEUの命運を決する。その意味では欧州統合は、加盟国離脱という初めての体験でこれまでにない最大の危機にさらされている。 

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