禁断の果実「ヘリコプターマネー」の落とし穴

執筆者:青柳尚志2016年7月29日
この「安倍・バーナンキ会談」も官邸の巧妙な演出だった(C)時事

 

 真夏の蜃気楼のような出来事が、国内外に明滅している。しつらえたかのようなトルコのクーデター未遂、欧州で頻発するイスラム関連のテロ事件、と言いかけたらこの日本でも起きた凄惨な障害者施設での大量殺人。郵政解散を再現したかのような都知事選は、まるでポケモンの世界のようだ。

 

市場の期待を高めた「官邸の仕掛け」

 いずれも重要だが、多くの人々はムズムズした感じを抱いているはずだ。日本の経済、社会システムは、このままで持続可能なのだろうか。仕組みが持たなくなったときに、社会の土台を覆すような大変動が起きないだろうか。そんな言いようもない胸騒ぎである。

 経済の世界で足元の話題を独占するのは、中央銀行が空から現金をまくようにお札を散布する「ヘリコプターマネー」であろう。元々は、マネタリズムの大御所ミルトン・フリードマンが、所説を分かりやすく説明するために、ヘリコプターからお札をばら撒くたとえ話を用いた。

 フリードマンの弟子筋にあたるベン・バーナンキ前FRB(米連邦準備制度理事会)議長も、このアイデアの信奉者である。バーナンキ氏の場合は、FRB議長に就任前の理事時代に、日本に対しデフレ脱却の特効薬として、このヘリコプターマネーを唱えた。日本銀行がお札を増刷して国債を引き受け、そのお金で減税を実施するというものだ。結果的に、お札を刷って人々にばら撒く形となる。

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