今日(すでに日付が変わっているが)のセミナーで、まず興味深いのが、中東地域政治(地域国際政治)を論じる際に、対象が、イラン・トルコ・サウジだったことだ。

私はモデレーターとして中東の全体を見て議論を喚起する役割を負っており、また私の専門性としても、中東全域の比較政治や国際政治、あるいはイスラーム世界全体に通底する政治思想の影響を見るという観点をここのところは押し出しがちだが、しかし私は元来は国としてはエジプトについて最も長く接してきて、論文も書いてきた。そしてかつては中東地域政治における地域大国と言えば、まずはエジプトを挙げるのが定石だった。

しかし現在、中東の地域政治について議論する時には、エジプトを主要なアクターとして議論することはあまりない。エジプトは2011年のアラブの春以後の混乱の中で、地域大国としての地位を急激に低下させている。同様に、かつての中東政治でエジプトと競って存在感を示したシリアもイラクも、内戦と混乱に沈み、中東地域政治の対処すべき問題としては認知されても、中東地域政治の主要なアクターとしては認められえない。そもそも「シリア」や「イラク」といった主体の一体性が定かではない。国家としての統一性も、国民社会の一体性も、政権の統治機構が領域一円に排他的支配を及ぼしているという実態も乏しくなっている。それらに比べれば相対的にエジプトはマシ、という程度になってしまっている。

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