オスマン帝国への郷愁か? 不穏な発言を繰り返すトルコのエルドアン大統領 (C)AFP=時事

 昨日は「中東通信」でギリシア・テッサロニキ(旧サロニカ)ートルコ・イズミル(旧スミルナ)間をつなぐフェリー航路の開設の話題を紹介した。これはオスマン帝国崩壊・トルコ共和国設立の過程で行われたギリシア人・トルコ人の「住民交換」にさかのぼる話だったが、今年は中東の国際秩序の根本を疑うような動きや発言が絶えない。

ローザンヌ条約(1923)がトルコと中東国際秩序の礎

 拙著『サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』(新潮選書)を書いたのも、まさにこの国際秩序の根本が揺らぎ、問い直される時期に来たという認識からである。

 この本では、今年が百周年の節目でもあり、人口に膾炙しているということも勘案して「サイクス=ピコ協定」をタイトルに組み込んだが、本文で論じたように、実はこの協定そのものは、日本で世界史の教科書や俗説歴史本・テレビのコメントなどで単純化されて議論されているのとは違い、現在の事象をあまり説明できない。アラブ諸国のアラブ民族主義に関してはこの協定をめぐる議論が各勢力の正統性の根拠となっているため不可欠だが、地域国際政治上より重要な、オスマン帝国の継承国であるトルコについては、この協定はそれほど現在を規定していない。

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