「平和安全保障法制」への評価と批判(下)

執筆者:冨澤暉2016年11月19日

 第1次安倍内閣のときに発足した安保法制懇が挙げた4事例の中の「米国向けの弾道ミサイルを日本のミサイル防衛システムで邀撃する」という項目だけは、確かに集団的自衛権行使に関わるもののように見える。しかし、これを初めて読んだ時、筆者は即座に「こんなこと、できっこないよ」と呟いていた。

日本は米国本土向けのミサイルを邀撃できない

 米国本土向けのミサイルが仮に北朝鮮から発射されるとして、それは日本上空を飛ばないからである。ミサイルは通常最短距離を飛ぶので、北朝鮮から米国本土に行くときには東部ロシア→アラスカ→カナダ→米国と、いわゆる大圏航路をとるのである。だから日本上空を横切ることはない。無論、その2つの大陸の上空を跳ぶミサイルを日本から追いかけて撃つこともできない。航空自衛隊のPAC‐3という対空ミサイルの射程は25キロで、日本海上の海自イージス艦搭載のSM-3の射程は200キロだから、どちらもそのレーダーからして届かないし、速度は追いかける方が遅いからである。

 ハワイ攻撃の場合は東北の1部を通過し、グアム攻撃の場合は九州の西を通過するので確かにこれらは例外である。しかし、これら長距離ミサイルが日本上空を通過するときは300キロから400キロの高度になっているので(かつて東北地方を横切った北朝鮮のミサイルは秋田上空380キロ、岩手上空410キロの高度であったとの記録がある)、SM-3でも届かず、さらに弾道ミサイルよりもSM-3ミサイルの速度の方がこの時点では明らかに遅いので邀撃は不能なのである。

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